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浦和家庭裁判所 平成9年(少)468号 決定

少年 K・S(昭和56.9.16生)

主文

少年を、初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成の平成8年12月12日付け少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるからこれを引用する。

(ぐ犯事実)

少年は、本件平成8年少第4590号傷害保護事件により平成9年1月7日在宅試験観察に付され、当初1~2週間は真面目に登校していたが実母の指導にも従わず次第に怠学が目立つようになり、更に同級生のAに付きまとい無理に自分の家に外泊を強要したりこれを断った同人に対し頭髪をレザーカッターで丸刈りにしようとして切り傷を負わせる等しており、保護者の正当な監督に服さずその性格・環境に照らして将来、傷害・脅迫等の罪を犯す虞があるものである。

(法令の適用)

傷害につき、刑法204条

(処遇の理由)

少年は、韓国人の実母と日本人の実父の間に生まれ、実母が離婚後水商売で生計を立てるようになったため幼少時代から知人に預けられて生育し、小学校3年時に実母に引き取られて川口市の小学校に転校し同級生の苛めにあい5年時に『苛めっ子』と喧嘩してやり返して以来逆に苛める側になり同級生に暴力を振るったりし、中学校入学後は更に感情的に不安定になり数え切れないほど同級生や教師に暴力を振るったりして平成7年6月ぐ犯で初めて身柄事件係属し同年8月在宅試験観察となり、一時は少しは落ち着いて登校するようになり暴力を振るうことこそ無くなったが、暫くすると遅刻・欠席も多くなり自宅に夜遅くまで多数の友人を集めたり逆に無断外泊したりし実母と衝突して実母が情緒不安定になり家をあけることもあったが、平成8年3月下旬保護観察処分となった。

少年は、中学校3年進級後授業には殆ど出席せず次第に昼夜逆転の生活になり、加えて平成8年秋以降卒業後の進路のことで実母と対立し親子喧嘩となり同年11月末実母が家をあけ、少年も益々感情的に不安定になり同年12月上旬中学校内で教師から注意を受けたことで激昴して3人の教師に殴る蹴るの暴力を振るい3日ないし2週間の怪我を負わせる傷害事件(本件平成8年少第4590号事件)を起こし再度身柄事件係属し、平成9年1月初め再度在宅試験観察となり、一時は見違える程落ち着いて登校するようになったが、次第に進学のことで不安を強め実母の指導にも従わず怠学が目立つようになり嫌がる同級生のAに付き合いを強要して付きまとい挙げ句の果てに本件ぐ犯事実記載のとおりの行状になった。

少年は、知的能力は若干低い程度で問題はなく、内実は繊細・神経質で心配性で寂しがり屋で自信に乏しく物事がうまく行かないと悲観したり落ち込んだりし、自分を受け入れてくれる人に対しては素直で優しいところを見せる反面、短気で自己本位で自分が不当に扱われたと感じたり頭ごなしに叱責されたりすると自己顕示的に虚勢を張って強気に振る舞い、興奮して粗暴な態度を取りがちで、本件の対教師傷害事件もまさにその典型例である。

少年の実母は、韓国籍で来日以来の必ずしも恵まれなかった境遇のため被害感を強めがちで、真面目だが自己主張も強く柔軟性に欠け精神的に不安定で感情的になりやすく、少年に対する観護の能力も十分とはいえない。

以上の、教師の指導・注意に反発興奮して暴力を振るい怪我を負わせたという本件傷害事件の態様、本件ぐ犯事実のとおりの少年の生活状況、不安定で感情的になりがちな性格、保護者の不十分な監護能力等からみて、この際、少年を初等少年院に送致して、厳格な枠組みの中で規則正しい生活習慣を学ばせ、自己中心的性格を改善して対人関係を円滑に保つ技術を訓練し社会適応性を高め、併せて物事に地道に取り組む姿勢を養うべく矯正教育を施すのが相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条号1項、少年院法2条2項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 太田剛彦)

〔参考〕平成8年12月12日付け少年事件送致書記載の犯罪事実

被疑者は、川口市○○×丁目××番×号に所在する○○中学校の生徒であるが、

(1) 平成8年12月10日午後5時5分頃、右中学校職員室内において、被疑者の友人の他校中学生徒が下校時刻が過ぎても在校していたことについて、同校教諭等から指摘されているものと邪推の上、憤慨し、同職員室内に侵入し居合わせた同校教諭等に向け「B、謝れ、皆ぶっ殺してやる。」等と怒号しながら申し向け、制止に入った同校教諭C(46歳)に対し、やにわに手拳等で腹部、顔面等を殴打する等の暴行を加え、もって右同人に対し、顔面打撲、鼻出血により約5日間の安静が望ましい傷痍を負わせ、

(2) 更に、前記日時場所において、たまたま同所に居合わせた同校教諭D(45歳)に対し、やにわに手拳、足蹴り等で顔面、腹部等を殴打、足蹴りする暴行を加え、もって右同人に対し頭部打撲、腹部打撲により約3日間の安静が望ましい傷害を負わせ、

(3) 平成8年12月10日午後4時55分頃、右中学校2年×組の教室内において他校中学生徒等と雑談中、同校教諭B(43歳)から「何をしている。土足で入ってはいけない。」等と指導注意された事に憤慨し、「うるせえんだよ」等と怒号しながら申し向け、右同人の顔面等を足蹴りする等の暴行を加え、右暴行により、右同人に対し、下口唇挫滅創、下顎部打撲により約二週間の安静が望ましい傷害を負わせ、

たものである。

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